共感や思いやりでは決して務まらない「面接」という業務

今思えば、その後、私を大いに悩ませることになる那智クン(20代男性/仮名)は、
入ってすぐの新人研修でも、苦笑してしまうシーンがいくつかありました。

採用を決めた新人さんは、現場に入れる前に、
私のほうで業務内容の説明や基礎知識を教え、
その後の数日間は、実践的なトレーニングを行うのですが、
二日目に、20冊ぐらいの古本をバッグ一杯に詰め込んできて、
「この中で、どれを先に勉強したらいいですか?」って尋ねるんですよね。

聞けば、前の日の帰りに、すぐに古本屋に立ち寄って、
めぼしい専門書を買いあさったようですが、
あまりにも専門的な学術書ばかりで、逆にこちらがびっくり。

でも、やる気が大いにあると思った私は、それを好ましく思い、
「うわぁ、いいね~、すごいねぇ」と褒めてあげて、
取りあえずこの辺なら役立ちそうかな?と思うものをピックアップして、
彼に伝えました。

でも、このとき、彼は業務内容をどのようにとらえていたのかしらね。
今思えば、それらの本は難しすぎるし、見当違いなものばかり。

私は目を輝かせて、バッグからたくさんの古本を取り出し、
目の前のテーブルの上にバンバンと重ねていく彼を、
そのときは、今までにないぐらい意欲的でいい人材と捉えてしまったのですが、
考えてみたら、そんな専門書、普通は選ばないよね(^_^;)
それに、これから取り扱う商品を技術的に理解するなら、
普通は古本ではなく、なるべく新しい新刊書を選ぶと思います。

彼がうれしそうに、「これも学びたい、これも勉強したい」と、
いつまでも話を続けるのに笑顔で付き合っていた私でしたが、
いつまで経っても、話しが終息せずに延々と続くので、
たまっている仕事もほかにあるし、さすがに時間が気になって来て、

「那智君、でも、こんなに専門的な勉強しなくても大丈夫だよ(笑)
興味があれば、読んでみる、ぐらいの感じでいいんじゃないかな?」と、
話をさえぎって、ようやく、その場を終わらせました。

*    *    *    *    *    *

そういえば那智君は、研修が終わっても「帰らない人」でした。

「それじゃ今日はここまで」と、区切りをつけて挨拶を終えると、
どの人も、ノートや筆記具をしまって、さっさと帰っていくんですが、
那智君だけは、なぜか、部屋に残っているんです。

といっても、復習するわけでもなく、片づけるわけでもなく、
黙って部屋の入り口に立っているので、
私は自分に何か相談事でもあって、私の手が空くのを待っているのだと思い、
ホワイトボードを拭いたり、商品サンプルをしまったりして研修の後片付けを終えると、
「那智君、何か用?」と声をかけてみました。

すると彼は、「いえ、別に。」っていうんです。
自分からは言いにくいことなのかな?と思い、
「相談があるなら、遠慮しないで言ってね」と水を向けてみたんですが、
「いえ、ありません。」と短く言うばかりで、ちょっと意味がよくわかりません。
でも、帰らない。なぜか帰らない。

人がまだ残っているのに、消灯して部屋に施錠するわけにもいかないので、
「私を待っていたんじゃないの?」と念を押しても「いえいえ、違いますよー(笑)」と笑うだけですが、
本当に何もないのかな?と思うと、もし何かあるなら、今のうち聞いておかないと・・・という気になります。
実は、研修時って、「他社が決まった」という理由で突然入社辞退をされてしまうなど、
こちらとしては、結構、気を遣う時期なんですよね。

だから、もしそうだった場合に、「どうしてもっと早く相談してくれなかったの?」と言った時に、
「忙しそうだったから」とか「親身に相談に乗ってくれそうな感じじゃなかった」などと言われないように、
新人には最新の注意を払うんですよ。まだ正式採用前だけど、この時点で辞められると、
(過去にそういうことが続いたときがあり、トラウマになっているのかもしれないけど)
ショックが大きいんです。

でも、どう尋ねてみても、何もなさそうなので、もう、これ以上は時間的にも無理、と思って、
「那智君、この部屋、鍵かけるから、話があるなら、また、明日ね」と帰宅を促しました。

すると彼は、驚いたように、「え?帰っていいんですか?」って言うんです。
「帰っちゃいけないのかと思っていた」と言うのです。

人にやさしい私は、(何か勘違いしたのかな、そういうこともあるよね)と、
共感を覚えこそすれ、特に変だとは思わなかったのですが、
自分のこの、相手を理解して寛容に捉える気持ちが、
結果的に、その後、山のような採用の失敗を積み上げることになりました。

那智君はたぶん、アスペルガーだったと思います。
このときのことを思いだしてみると、
見当違いの専門書を山のように買ったことも、
これからの業務の本質から外れていますし、
それをいつまでも語り続けてやめないところも、
まったく、空気を読んでいません。

そして、研修が終わっても帰らなかった件は、
「皆さん、帰ってもいいですよ」という言い方をせずに、
明確に帰宅の許可を言葉で伝えなかったため、
字義通りに言葉をキャッチする彼にとっては、
「帰っていいと言われなかったから帰らない」という理論になったのだと思います。

普通は、周りが帰り始めたら、自分も帰るものだと思いますが、
アスペルガーの人の中には、
周囲の動向を見ても自分の行動を変えようとは思わない人もいるので、
「見たらわかるでしょ?」の発想は通用せず、
誰かが言葉ではっきりと言ってあげないと伝わらないんですよね。

そんな那智君なので、高学歴・高キャリアの秀才であるにも関わらず、
那智君の意味不明な行動や、独自の判断や優先順位の付け方が、
現場に入れてすぐに、先輩達の大ブーイングを引き起こしました。
その部門は、弁の立つ、パワフルな女性陣が多かったので、
彼を選んで採用した私は、たちどころに彼女達の批判の矢面に立たされ、
那智君に対する職場内の大クレームや爆発的な不満を常に突きつけられて、
毎日が全くこころ穏やかじゃなかったですし、随分、悩みました。

私は、人を見る目がないんだろうか?と思うと、リーダーとしての自信も失墜し、
顔では強そうに振る舞っていても、内心は常にスタッフに怯えているような日々でした。

那智君や、それに続く数々の採用の失敗を痛いぐらいに経験してきて思ったのは、
採用面接担当者は、ちょっとでも変だと思ったり、違和感を感じたら、
すぐさま、疑念のフラグを自分の心の中に立てないとダメだということ。

職場の平和と保ち、スタッフがストレスなく意欲的に働くことができて、
それがすなわち、実績に繋がっていくような職場づくりのためには、
採用面接担当者は、何が何でも、「あとで問題になりそうな人」の入社は、
水際で食い止めなくてはならないのです。

採用面接という業務を通じて、それを痛感した私は、
長所を見つけていくやり方ではなく、
危険信号をいち早く察知して疑いを深めていく減点法でなければならない、
と、思うようになりました。

そして、もっともっと精度を上げて、人を見抜くことができるように、
こんな行動したらNG、こういう言動の人は危険、といった風に、
様々な事柄を体系立てて、自分の中でパターン化したいと思い始めました。
そのルールを必死でつかんでいきたいと思いました。

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